近年、人工知能(AI)の進歩はめざましく、その波は税理士業界にも押し寄せています。
特に注目を集めているのが、OpenAIが開発したAI、ChatGPTです。
大量のデータを学習し、あらゆる質問に対してテキスト形式で回答を生成するこのAIは、その能力により税理士業界だけでなく全ての業界での活用が期待されます。
現時点では「まだまだ」と言われているかもしれません。
しかし、技術の進歩は止まりません。
私たちがそれをどのように理解し、変化に対応していくのかが今後大切です。
本記事では、以下の観点でChatGPTについて考えていこうと思います。
- ChatGPTとは何か?何ができるのか?
- ChatGPTの使い方
- 税金計算はできるのか?
- 税理士っていらなくなるのか?
ChatGPTとは?ChatGPTができること・できないこと
ChatGPTとは何か?
OpenAIが2022年11月に公開した人工知能チャットボットです。
2022年11月に公開されると、わずか2カ月でユーザー数が1億人を突破しました。
2023年3月には、GPT4(※)が発表され現在利用可能な状態です。
※2023年7月6日無料版はGPT3.5までです。GPT4の利用には月額20ドル(約2,800円)です。
ChatGPTができることは?
ChatGPTでは、テキストボックスに入力可能な文章や言語に対してテキストで応答するのであれば、基本的には何でもできます。
- 会話
- 翻訳
- 文章要約
- 原稿作成
- プログラミング
会話して!と頼んで会話をしてもらったり、翻訳をお願いしたりと何でもできます。
また、「●●になりきって回答する」みたいな役割を演じてもらうことを可能です。
ChatGPTができないことは?
万能そうなChatGPTができないor苦手なこともあります。
- 最新情報に基づく回答
- 個別具体的な内容に対する回答
- 医療・法律などの高度な専門知識
ChatGPTは現時点では2021年9月までのデータに基づき作成されているため、リアルタイムな情報のやり取りは苦手です。また個別具体度の高い内容や専門性の高い分野の対応も苦手です。
例えば「渋谷の美味しいお店屋さん教えて」と言っても結構架空のお店を答えてきます。
ChatGPTの使い方と回答精度
ChatGPTの使い方は?
ChatGPTは、Webサービス版が提供されているため、ダウンロードは不要です。
OpenAIのウェブサイトにアクセスし、アカウントを作成するだけで無料で使えます。
手順1:下記の画像の「Try ChatGPT」をクリック
手順2:アカウント作成
「Sign up」をクリックし、メールアドレスを入力(googleアカウントなどからでも作成できます)。
手順3:ログインし、名前や電話番号を登録
ログインが完了すると、早速ChatGPTが使えるようになります。
ChatGPTにどう質問するの?
ChatGPTの使い方はとても簡単です。
LINEなどでメッセージを送るように、テキスト入力フォームにテキストを入力して送信するだけ。
ChatGPTはその入力に応じて回答などを生成します。
ためしにテキトーな内容で税金の相談をしてみましょう。
ChatGPTへの税金相談実験
横浜市に住んでいます。昨年父から現金100万円の贈与を受けました。どうしたら良いでしょうか
あなたが贈与を受けたということは、税法上、あなたは贈与税の対象となる可能性があります。
ただし、贈与税は一定の控除が存在するため、全てが課税されるわけではありません。
2023年現在の日本の法律では、贈与税の基礎控除額は110万円であるため、あなたが受け取った100万円は基礎控除の範囲内に収まります。
そのため、贈与税を支払う必要はないと考えられます。
しかし、その年に他からも贈与を受けた場合、それらの総額が110万円を超えると贈与税が発生する可能性がありますので、注意が必要です。
また、贈与の手続きや税金の計算には複雑な規定があるので、詳しい情報を得るためには税理士や専門家の助けを借りることをおすすめします。
以上の情報は私の知識が2021年までのものであるため、最新の法律や規定については現地の税務署や専門家に確認することをおすすめします。
専門知識の利用には注意が必要
ちゃんと「贈与税」の話題と「基礎控除」の話を出してきましたね。
確かに贈与税の支払は不要なので、回答は○です。
ただ気になる点があります。
ChatGPTさんって2021年9月までのデータしかないはずなんですが、「2023年現在の日本の法律では」と回答してきていますね。
自分の知らない知識を語っているので明らかに嘘が混じった情報です。
しかも最終的には「私の知識は2021年までのものであるため」と言っています。
自己矛盾しています。
このように、ちょろちょろ嘘や間違いが混じっているので完全に信じることはできません。
また、専門情報については「専門家に聞け」と必ず言います。
とはいえGPT4はめちゃくちゃ賢い
とはいえChatGPTはめちゃくちゃ賢いです。
私は有料モデルのGPT4を使用しているのですが、会話していて知識の範囲と量に関していえば太刀打ちできないなと実感しています。
最新のGPT4に関しては、米国司法試験に上位10%で通るくらい賢いようです。
この程度の贈与税の話なら秒殺なのも頷けます。
※ちなみに無料版のGPT3.5は下位10%だそうです。
ChatGPTがあれば税理士は不要になるのか?
では、ChatGPTが広がると税理士は不要になるのでしょうか?
ちなみに税理士いらなくなる論争は、賃貸か持ち家か論争と同じで終わりなき戦いが始まるので、ここからは与太話だと思ってコーヒーでも飲みながら聞いてください。
しばらくは税理士不要とはならない(と思う)
おそらく、まだしばらくは税理士や各種専門家が不要になることはなさそうです。
現状では、複雑な税法の解釈や新たな法律・裁判例についての洞察力には限界があります。
そして、クライアントの特定の事情やビジネスニーズを理解して、適切な対応をするという能力もまだ欠けています。
特に記憶力に関して問題があります。
めちゃくちゃ優秀なChatGPTさんですが、記憶力が悪いです。
短期記憶しかないので、話を繰り返していくと過去の会話を忘れてしまいます。
このため、せっかく新たな知識や前提知識を教えても、すぐに忘れてしまっているのです。
だからこそ、しばらくは「もう税理士なんかいらないよ」とはならなさそうです。
近い将来、税理士を超えるんじゃないか問題
ただ、記憶力などに問題があるとはいえ、今のChatGPTさんもとても優秀です。
複雑な計算もちゃんと前提知識を教えてあげれば計算できます。
となると、記憶力の問題を克服した近い将来、一般的な税理士が日常的に接する程度の税務であれば代替可能だと個人的には感じます。
試しに相続税の計算をChatGPTにさせてみました。
ChatGPTによる相続税の計算
- 父が亡くなった。
- 法定相続人は3人(母、私、弟)
- 相続財産は1億円
- それぞれ法定相続分で相続
私の父が亡くなりました。家族は母と私を含む兄弟2人です。父の財産は1億円あり、負債はありません。各自の相続財産は法定相続分です。それぞれが相続する財産の額と相続税の額を教えてください。
面倒なので全部現金だったとしておきましょう。
この場合の相続税額は、本来は次のとおりになります。
母(配偶者) | 0円 |
---|---|
私(子) | 157.5万円 |
弟(子) | 157.5万円 |
ChatGPTの初回の回答
母(配偶者)20万円、私(子)0万円、弟(子)0万円
※注意※この回答は間違いです。
基礎控除の計算までは合ってますね、素晴らしいです。
一方で税額の計算の部分を間違ってしまっています。
計算方法を教えた場合の回答
これだけだと「やっぱまだまだだな」と感じます。とはいえGPT4さんは米国司法試験上位10%で合格できる頭脳のある怪物です。正しいやり方を教えてあげましょう。
その結果が次の通りです。
母(配偶者)0円、私(子)157.5万円、弟(子)157.5万円
はい、正解です。
私が教えてあげたのは今回の例の数字を使って教えたのではなく、正しい計算過程と配偶者控除の考え方を教えただけです。
それだけでちゃんと答えを出してきました。
※もちろんちゃんと伝わらなかった部分を適宜補足したので一発でとはいきませんでしたが・・・
相続税の基本的な計算方法を1回教わっただけでばっちり正解できる人ってどれくらいいるんでしょうか。
※余談ですが私のGPT4さんは既に記憶を失ってしまいました。
個人情報等のデータはChatGPTに入力しないようにしましょう。
入力情報をトレーニングデータとして利用されるので、どこかに情報が洩れるリスクがあります。
やっぱりChatGPTってすごい
最近、ChatGPTを使わない日はありません。
色々なことを考える際の壁打ち相手としても使えますし、ちょっとしたことはだいたい教えてくれます。
難しくてさすがに読む気にならない英文も、一撃で翻訳してくれます。
それっぽい文章も大量かつ高速に生成してくれます。
やっぱりChatGPTはすごい。
であれば今使い始めない手はないんじゃないでしょうかね?
「まだまだ」と馬鹿にする暇があれば早く使い始めた方が良い
使い方次第でかなり優秀に機能してくれます。
「まだまだ」と馬鹿にしている暇があるなら早く使い始めた方が良いと思います。
もちろん回答内容が正しいのか?を常に考えること、回答内容を理解することができる程度の知識は必要です。
でもそれってどこかで聞いたことがある話ですよね。
「ネットリテラシー」
それと変わらないわけです。
わけわからなくても触ってみる。
とりあえず使ってみる。
こういうのが大切かなと思います。