会社を立ち上げたばかりの頃、こんな経験はありませんか。「売上はちゃんと立っている。決算書を見ても利益は出ている。なのに、なぜか通帳の残高がどんどん減っていく」。
実はこれ、創業間もない経営者の多くが一度は通る道です。利益が出ているのにお金が足りなくなる状態が行き着く先が、いわゆる「黒字倒産」。今は倒産とまでいかなくても、資金繰りの不安を抱えたまま日々を過ごしているという方は少なくないはずです。
本記事は、全3回でお届けする「創業期の経営ポイント」シリーズの第1回として、資金繰りの基本の「き」を解説します。専門用語はできるだけかみ砕いてお伝えしますので、資金繰り表を作ったことがない方でも大丈夫です。
なぜ創業期は「黒字なのにお金が足りない」が起きやすいのか
まず押さえておきたいのは、「利益」と「手元のお金(現金)」はイコールではない、という点です。
会計上の利益は、売上が発生した時点で計上されます。しかし実際にお金が口座に入ってくるのは、多くの場合それより後です。掛け取引(後払い)が多い業種であれば、売上を計上してから実際の入金まで1〜2ヶ月、あるいはそれ以上のタイムラグが生じることも珍しくありません。
一方で、創業期は次のような「先払い」が重なりやすい時期でもあります。
- 設備投資(パソコン・什器・内装工事など)
- 仕入や外注費の前払い
- 事務所の敷金・礼金、保証金
- 広告宣伝費などの初期投資
つまり、「お金が出ていくタイミング」は早く、「お金が入ってくるタイミング」は遅い。この時間差が創業期には特に大きくなりやすく、結果として「帳簿上は黒字なのに、手元の現金がショートする」という事態が起こりやすいのです。
たとえるなら、家計における「給料日前の苦しさ」に近いかもしれません。来月末には給料がまとまって振り込まれるとわかっていても、今月中に家賃や光熱費、クレジットカードの引き落としがあれば、その支払いには今手元にあるお金を充てるしかありません。将来もらえるお金がいくら多くても、今払うべきお金が今ないと、生活は立ち行かなくなってしまいます。会社の資金繰りも、基本的にはこれと同じ構造で起きています。
だからこそ創業期に必要なのは、「儲かっているかどうか」だけでなく、「いつ、いくらお金が動くか」を把握しておくことなのです。
資金繰り表を作って「いつ、いくら足りなくなるか」を見える化する
「いつ、いくらお金が動くか」を把握するための代表的なツールが、資金繰り表です。損益計算書が「儲かっているかどうか」を示す表だとすれば、資金繰り表は「お金が回っているかどうか」を示す表、とイメージすると分かりやすいでしょう。
資金繰り表の基本構成
資金繰り表は、おおむね次の5つの区分で構成します。
- 前月繰越:前の月から引き継いだ手元資金の残高
- 経常収入:売上の入金など、本業から得られる収入
- 経常支出:仕入・人件費・家賃など、本業でかかる支出
- 財務収支:借入金の入金や返済など、金融機関とのやり取りによる収支
- 翌月繰越:上記を差し引きした、翌月に引き継ぐ手元資金の残高
損益計算書のように「発生したタイミング」で数字を並べるのではなく、実際に現金が動く月に合わせて数字を並べていくのがポイントです。これを月ごとに埋めていくことで、「◯月には手元資金がここまで減りそうだ」という見通しが立ち、資金が足りなくなる前に手を打てるようになります。
まずは無料テンプレートで十分
「資金繰り表を自分で一から作るのはハードルが高い」と感じる方も多いと思いますが、その必要はありません。中小企業庁が公開している「資金予定表かんたん作成ツール」を使えば、いくつかの質問事項に数値を入力するだけで、資金予定表を作成できます。
最初から自社独自のフォーマットにこだわる必要はありません。まずは既存のテンプレートで「見える化」する習慣をつけることが何より大切です。
手元資金がどこまで持つかの「目安」を知っておく
資金繰り表で先々の見通しを立てると同時に、「今、手元にあるお金がどれくらいの期間もつのか」という目安も持っておきたいところです。
毎月の固定費を洗い出す
まずは、売上の増減にかかわらず毎月必ず出ていく「固定費」を一覧化してみましょう。
- 家賃(事務所・店舗)
- 人件費(役員報酬・給与)
- リース料・保険料などの定額支払い
- 借入金の返済額
これらを合計すると、「毎月最低限これだけの現金が出ていく」という基準値が見えてきます。この基準値と手元資金の残高を照らし合わせれば、「何もしなくても、あと何ヶ月分の固定費を支払えるか」というシンプルな目安を持つことができます。
運転資金は何ヶ月分を目安にするか
事業を続けていくために必要な、いわば事業の「燃料」にあたるお金のことを「運転資金」と呼びます。一般には、手元に一定期間分の運転資金を確保しておくことが望ましいとされていますが、必要な月数は業種や季節による売上の変動、取引先との入金・支払いサイトによって大きく異なります。
当事務所では、まずは運転資金の3ヶ月分を手元に確保しておくことを一つの理想の目安としてご案内しています。
ただし、これはあくまで出発点となる目安であり、「何ヶ月分あれば絶対に安心」という一律の正解はありません。自社の売上サイクルや支払い条件を踏まえたうえで、専門家と一緒に自社に合った目安を決めていくことをおすすめします。
資金が足りなくなる前に検討したい資金調達の選択肢
資金繰り表で先々の資金不足が見えてきたら、実際に資金が尽きてしまう前に、資金調達の選択肢を検討しておくことが重要です。慌てて動き出すのと、余裕を持って準備するのとでは、使える選択肢の幅も交渉力もまったく違います。
日本政策金融公庫の創業融資
創業者向けの代表的な融資制度として知られているのが、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。日本政策金融公庫の案内によれば、新たに事業を始める方や事業開始後まだ税務申告を2期終えていない方は、原則として無担保・無保証人でこの制度を利用できるとされています。
なお、自己資金の状況が融資審査にどこまで影響するかは個別の審査によって異なるため、自己資金がまだ十分でない創業期であっても、まずは日本政策金融公庫の窓口や当事務所にご相談いただくことをおすすめします。
自治体の制度融資・補助金という選択肢
日本政策金融公庫以外にも、事業所のある都道府県・市区町村が独自に用意している制度融資や補助金があります。制度融資の中には自己資金要件が設けられていないものもあり、国の制度とあわせて検討する価値があります。
例えば神奈川県には、神奈川県・神奈川県信用保証協会・金融機関が連携して行う「神奈川県中小企業制度融資」があり、創業者向けのメニューも用意されています。また横浜市内で創業される方であれば、横浜市の「創業おうえん資金」のように、創業前後の方を対象とした融資制度もあります。「こんな制度もあるんだ」というくらいの気持ちで、一度覗いてみるのもおすすめです。
- 神奈川県中小企業制度融資:https://www.pref.kanagawa.jp/docs/p3k/cnt/f100519/index.html
- 横浜市中小企業融資「創業おうえん資金」:https://www.city.yokohama.lg.jp/business/kigyoshien/yushiseido/yushiseido/venture-sougyo.html
自治体ごとに内容や条件が異なり、時期によって新設・変更されることも多いため、まずはお近くの自治体の窓口や商工会議所、あるいは当事務所へご相談いただくのが確実です。
まとめ:資金繰りは「見える化」と「早めの相談」がカギ
創業期に「黒字なのにお金が足りない」という事態を避けるためのポイントを、あらためて整理します。
- 利益と手元のお金は別物であることを理解する
- 資金繰り表を作り、いつ・いくらお金が動くかを見える化する
- 固定費を洗い出し、手元資金がどこまで持つかの目安を持つ
- 資金が足りなくなる前に、融資や補助金といった調達の選択肢を検討しておく
いずれも、特別な知識がなくても今日から始められることばかりです。まずは資金繰り表という「見える化」の一歩を踏み出し、不安に感じた時点で早めに相談することが、創業期を乗り切る一番の近道になります。
資金繰り表の作成方法や、自社に合った資金調達の進め方については、税理士にもご相談いただけます。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断については当事務所までご相談ください。

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