「売上が順調に伸びてきたけど、そろそろ法人化したほうがいいのかな?」 「知り合いの社長に『早く法人化したほうがいいよ』と言われたけど、本当にそうなの?」
個人事業主として事業が軌道に乗ってくると、一度は頭をよぎるのが「法人化」の問題です。
こうしたお悩み、実はとても多いんです。ネットで調べると「法人化すれば節税できる!」という情報がたくさん出てきますが、タイミングを間違えると、かえって損をしてしまうケースもあります。
この記事では、法人化を検討すべきタイミングの目安と、メリット・デメリットの両面を正直にお伝えしていきます。最後まで読んでいただければ、ご自身にとって法人化が「今なのか、まだ先なのか」を判断するための材料が手に入るはずです。
そもそも「法人化」とは?
「法人化」とは、個人事業として行っていた事業を、株式会社や合同会社などの法人に切り替えることをいいます。
よく「会社を設立する」というと、ゼロから新しいビジネスを始めるイメージがあるかもしれません。しかし法人化は、今やっている事業の「器」を変えるだけです。
個人事業は「自分の名前を看板にしたお店」、法人は「会社の名前を看板にしたお店」。売っている商品やサービスは同じでも、お店の看板(法的な形態)が変わるわけです。
では、この「看板の掛け替え」は、いつ行うのがベストなのでしょうか?
個人事業主が法人化を検討すべき5つのタイミング
法人化に「全員に当てはまる正解」はありませんが、多くのケースで目安になるポイントが5つあります。
① 所得が900万円を超えたとき
個人事業主の法人化を検討する最も代表的な目安が、課税所得900万円のラインです。
個人事業主にかかる所得税は「累進課税」といって、所得が増えるほど税率が上がる仕組みになっています。所得が900万円を超えると、税率は33%(住民税を合わせると約43%)にもなります。
一方、法人税の実効税率は、中小企業の場合おおむね25%前後です。
つまり、所得900万円あたりを境に、個人のままでいるよりも法人にしたほうが税負担が軽くなる可能性が出てくるのです。
【ざっくりシミュレーション:所得1,000万円の場合】
個人事業主:所得1,000万円
法人:法人の所得を役員報酬600万円と法人分400万円に分割
| 項目 | 個人事業主 | 法人(役員報酬600万円の場合) |
|---|---|---|
| 所得税+住民税 | 約280万円 | 役員個人:約51万円 |
| 法人税等 | ― | 約97万円 |
| 税負担の合計 | 約280万円 | 約140万円 |
※上記はあくまで概算です。社会保険料や各種控除の条件により変動します。
このように、法人化して自分への役員報酬という形で所得を分散すると、全体の税負担が大きく変わることがあります。
② 年商1,000万円を超えて2年経過するとき
消費税の観点から法人化を検討するケースもあります。
個人事業主は、基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円以下であれば、消費税の納税義務が免除されます。年商が1,000万円を超えると、その2年後から消費税の納税が始まります。
ここで法人を設立すると、法人としては新たに事業を開始した扱いになるため、原則として設立から最大2年間、消費税が免除される可能性があります。
ただし近年、この免税制度にはいくつかの制限が設けられています。資本金1,000万円以上で設立した場合や、特定期間(設立後最初の6か月間)の売上・給与が1,000万円を超える場合は、初年度から課税事業者になることがあります。また、インボイス制度への登録をしている場合は、免税のメリットが受けられません。
消費税の免税メリットを活かした法人化を考える場合は、タイミングの見極めが非常に重要です。
③ 取引先から法人化を求められたとき
事業が成長してくると、「法人でないと取引できない」と言われるケースが出てきます。
特に大手企業や官公庁との取引では、個人事業主との契約を受け付けていないケースが少なくありません。また、法人格を持っているかどうかで「事業の信頼性」を判断する取引先も多いのが実情です。
こうした場面では、税金の損得勘定よりもビジネスチャンスを逃さないために法人化するという判断になります。
④ 人を雇い始めるとき
従業員を雇い入れるタイミングも、法人化を考える一つの目安です。
法人の場合、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。個人事業でも従業員5人以上で加入義務が発生しますが、法人であれば社長1人でも加入が必要です。
「それなら個人のままのほうが社会保険料を払わなくて済むのでは?」と思うかもしれません。確かにコスト面ではそうです。しかし、社会保険に加入していることは、従業員にとっては大きな安心材料になります。優秀な人材を採用し、定着してもらうためには、法人化して社会保険を整備することが現実的に必要になる場面が多いのです。
⑤ 事業承継や将来の出口を考え始めたとき
少し先の話にはなりますが、将来的に事業を誰かに引き継ぎたい、あるいは売却(M&A)を考えている場合、法人化しておくことが前提条件になります。
個人事業のままでは、事業用資産や取引先との契約をすべて個別に移転する必要があり、手続きが非常に煩雑です。法人であれば、株式の譲渡という形でスムーズに事業の移転ができます。
個人事業主の法人化のメリット
タイミングの目安をお伝えしたところで、改めて法人化のメリットを整理しておきましょう。
節税効果
先ほどご紹介した所得の分散に加えて、法人にすると経費として認められる範囲が広がります。
たとえば、生命保険料を法人契約にすることで一部を経費にできたり、出張手当(日当)を非課税で受け取れたりします。また、法人であれば自分自身に退職金を支給することが可能で、退職金には税制上の大きな優遇があります。
社会的信用の向上
法人格を持つことで、取引先や金融機関からの信用度が上がります。融資を受ける際にも、個人事業よりも法人のほうが審査を通りやすいという傾向があります。
有限責任の原則
法人(株式会社)の場合、原則として出資した金額の範囲内でしか責任を負いません。個人事業では、事業の負債がそのまま個人の負債になりますが、法人ではその点が法的に区分されます。
ただし注意点として、中小企業が金融機関から融資を受ける際には、代表者個人の連帯保証を求められることが大半です。そのため、実質的には個人事業とあまり変わらないケースも多いのが現実です。
将来の年金が増える
法人化して厚生年金に加入すると、将来受け取れる年金額が増えます。個人事業主が加入する国民年金(満額で月額約6.5万円)に比べて、厚生年金の受給額は報酬に応じて上乗せされるため、老後の生活設計にも影響してきます。
個人事業主の法人化のデメリット — ここが大事です
社会保険料の会社負担が発生する
個人事業主の法人化で最も「想定外だった」と言われるのが、社会保険料の会社負担分です。
健康保険と厚生年金の保険料は、従業員と会社で折半して負担します。たとえば役員報酬を月額50万円に設定した場合、会社が負担する社会保険料は毎月約7万円、年間で約84万円にもなります。
これは従業員を1人雇うごとに加算されるため、人数が増えるほど大きな固定費になります。
赤字でも税金がかかる
個人事業主の場合、赤字であれば所得税はゼロです。しかし法人は、赤字であっても**法人住民税の均等割(年間約7万円)**が必ず発生します。
「たった7万円」と思うかもしれませんが、事業が苦しいときに必ず出ていくお金があるというのは、精神的にも負担になります。
お金の自由度が下がる
個人事業の場合、事業のお金も生活のお金も基本的に「自分のお金」です。ところが法人化すると、会社のお金と個人のお金は完全に別物になります。
たとえるなら、個人事業は「自分の財布からいつでも好きなだけ使える状態」、法人は「会社の金庫と自分の財布が分かれていて、金庫から自分の財布にお金を移すにはルールがある状態」です。
会社のお金を個人的に使ってしまうと、「役員貸付金」として処理されてしまい、税務上のリスクにもなります。この自由度の変化は、独立して事業をしてきた方にとっては意外とストレスに感じるポイントです。
事務負担とコストが増える
法人の決算・税務申告は、個人の確定申告に比べてはるかに複雑です。自分で行うのは現実的に難しく、ほとんどの場合、税理士に依頼することになります。
法人化に伴う主なコストを整理すると、次のとおりです。
- 会社設立費用:株式会社で約25万円、合同会社で約10万円
- 税理士顧問料:年間30万〜50万円程度(規模による)
- 社会保険料の会社負担分:役員報酬に応じて年間数十万円〜
- 法人住民税均等割:年間約7万円(赤字でも発生)
これらのコストを合計すると、法人にすることで年間100万円以上の追加コストが発生するケースは珍しくありません。
法人化で「よくある失敗」と注意点
節税だけを目的にしてしまう
「法人にすれば税金が安くなる」という情報だけで法人化を決断し、社会保険料や税理士費用などのランニングコストを考慮していなかったというケースは少なくありません。
ここで大切なのは、「税金が減ること」と「手元にお金が残ること」は別の話だということです。
たとえば、100万円の利益に対して30万円の税金がかかるとします。この場合、手元には70万円が残ります。一方、「税金を減らしたい」と思って100万円を全額経費として使えば、税金はゼロになりますが、手元に残るお金もゼロです。
法人化による節税メリットも同じ視点で考える必要があります。税金の額だけでなく、最終的に手元にいくら残るのかをトータルで計算することが重要です。
売上が安定していない段階での法人化
年商が一時的に大きく伸びた年だけを見て法人化し、翌年以降に売上が落ちてしまうと、固定費(社会保険料・税理士費用・均等割など)だけが重くのしかかります。
法人化を検討する際は、少なくとも2〜3年は安定した売上・所得が見込めるかどうかを基準にするのが安全です。
法人化の手続きの流れ
実際に法人化をする場合の大まかな流れも押さえておきましょう。
①事業計画・シミュレーション:法人化後の税負担・社会保険料・コストを試算する
②定款の作成・認証:会社の基本ルールを決めて公証役場で認証を受ける(株式会社の場合)
③法務局で設立登記:登記が完了した日が会社の設立日になる
④税務署・都道府県・市区町村への届出:法人設立届出書などを提出する
⑤社会保険・労働保険の手続き:年金事務所やハローワークで加入手続きを行う
⑥法人口座の開設:銀行で法人名義の口座を作る
⑦個人事業の廃業届出:税務署に個人事業の廃業届を提出する
①の段階で税理士に相談しておくと、その後の手続きもスムーズに進めることができます。法人の設立登記自体は司法書士に依頼するケースが一般的ですが、税務面のシミュレーションや届出は税理士の専門分野ですので、早めに相談することをおすすめします。
参考:Q. 鶴見区で創業・起業するときの届出先はどこですか?
まとめ
個人事業主の法人化は、事業を成長させるうえで大きな転換点になります。所得の分散による節税効果や、社会的信用の向上、将来の事業承継への備えなど、メリットは確かに大きいものがあります。
しかしその一方で、社会保険料の負担増、事務コストの増加、お金の自由度の低下など、個人事業主のままではなかったコストや制約が確実に発生するのも事実です。
大切なのは、「法人化すべきか」を考えるだけでなく、「いつ法人化するのがベストか」を冷静に見極めることです。
「自分の場合はどうなんだろう?」と気になった方は、一度具体的な数字をもとにシミュレーションしてみることをおすすめします。横浜市鶴見区の川畑税務会計事務所では、法人化のタイミングや税負担のシミュレーションについて、個別にご相談を承っております。おひとりで悩まず、お気軽にお問い合わせください。
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