生成AIは税理士の代わりになるのか?実際の相談事例をもとに考えてみたいと思います。
ChatGPTをはじめとする生成AI、皆さんも使ったことがあるのではないでしょうか?今回は「AIに税務の相談をしたらどうなるか」を、実際のご相談をもとに考えてみます。
最近、「生成AIに聞いたらこう言われたんですが…」という前置きから始まるご相談が増えてきました。
ChatGPTやGemini、Claudeといった生成AIは、確かに膨大な知識を持っています。税務に関する一般的な解説も、驚くほど的確に答えてくれることがあります。
では、生成AIに相談すれば税理士は不要になるのでしょうか?
今回は、実際にあったご相談事例をもとに、この問いについて考えてみたいと思います。なお、相談者のプライバシー保護のため、本質を損なわない範囲で内容を一部変更・脚色しています。
「生成AIが法人成りを勧めてくるんですが…」というご相談

ある日、こんなご相談をいただきました。
個人事業主として仕事をしているのですが、マイクロ法人を作って法人成りした方がいいのかなと思っています。生成AIに聞いたら節税になると言われたので…
マイクロ法人とは、代表者1人だけで運営するような小規模な法人のこと。最近は「社会保険料の節約」や「節税」の文脈で話題になることが多いですね。
相談者の方は、生成AIにいろいろと質問して情報を集めたうえで、「どうやら法人を作った方が得らしい」という結論に至ったそうです。
生成AIの回答には、こんな内容が含まれていたとのこと。
- マイクロ法人を設立し、役員報酬を低く設定することで社会保険料を抑えられる
- 個人事業と法人を併用することで、国民健康保険料の負担を軽減できる
- 法人化することで経費の幅が広がり、節税メリットがある
どれも間違いではありません。一般論としては正しい情報です。
ヒアリングを進める中で見えてきた「AIが見落としていたこと」

ただ、私はこの時点で少し引っかかりました。
「個人事業と法人の併用」という部分です。
そこで、いくつか確認させていただきました。
「今されているお仕事の内容を、もう少し詳しく教えていただけますか?」
「法人を作った場合、個人事業の方はどうされる予定ですか?」
「生活費は今、どのくらい必要ですか?」
すると、こんな事実が分かってきました。
まず、相談者の方の事業内容を詳しくお聞きすると、業種の特性上、同じ事業を個人と法人で分けて行うことが現実的に難しい状況でした。
つまり、法人を設立した場合には、個人事業は廃業して法人に一本化する必要があるということです。
生成AIが前提としていた「個人事業と法人の併用」というスキーム自体が、この方には使えないものだったのです。
さらに問題がありました。
マイクロ法人で社会保険料を抑えるスキームは、基本的に「役員報酬を低く設定する」ことが前提です。個人事業の収入がメインで生活し、法人からの報酬は最低限に抑える。だから社会保険料が安くなるわけですね。
でも、この方の場合、法人一本化となると話が変わってきます。
「生活費として毎月どのくらい必要ですか?」とお聞きすると、当然ながら数十万円は必要とのこと。
法人の売上から生活費を得るには、役員報酬として受け取るしかありません。そして、生活に必要な金額を役員報酬として設定すれば、当然ながら社会保険料もそれなりの金額になります。
つまり、「役員報酬を低く抑えて社会保険料を節約する」という生成AIが提案したスキームは、この方にはまったく当てはまらなかったのです。
相談者の方からいただいた言葉

この点をお伝えしたところ、相談者の方はこうおっしゃいました。
生成AIはいろいろ教えてくれたんですが、自分の生活費をどうするかって視点が完全に抜け落ちていました。言われてみれば当たり前のことなんですけど、気づかなかったです…。危なかった
生成AIの回答自体は間違っていませんでした。「マイクロ法人で社会保険料を抑えられる」というのは、一般論としては事実です。
でも、「この方の状況に当てはまるかどうか」は、別の話なのです。
生成AIは「一般的に正しい情報」を教えてくれます。でも「あなたの場合はどうか」を判断するには、もう一歩踏み込んだ確認が必要なんですね。
税理士と生成AIの決定的な違い

今回の事例で改めて感じたのは、税理士と生成AIの「情報の扱い方」の違いです。
税理士は「聞きながら考える」
私たち税理士は、相談を受けながら「あれ?」と思うことがあれば、その場で確認します。
「この方の事業内容で、本当に個人と法人を分けられるのかな?」
「生活費はどうするつもりなんだろう?」
「そもそも法人化の目的は何だろう?」
こうした疑問が浮かんだら、お話を聞きながら一つずつ確認していく。その過程で、最初の相談内容とは違う本当の課題が見えてくることも少なくありません。
生成AIは「聞かれたことに答える」
一方、生成AIは基本的に「聞かれたことに答える」というスタンスです。
もちろん、最近の生成AIは「確認すべきポイント」を回答に含めてくれることもあります。
「以下の点を確認してください」といった注意書きがつくこともあるでしょう。
ただ、それを読むかどうかは相談者次第です。
自分にとって都合の良い情報、期待していた答えが書いてあると、人はどうしてもそこに目が行きがち。確認事項や注意点は読み飛ばしてしまうことも多いのではないでしょうか。
今回の相談者の方も、「法人化すれば節税になる」という部分に目が行って、細かい前提条件は見落としていたとおっしゃっていました。
生成AIは「知識量」では専門家を超えている

ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。
生成AIの「知識量」は、正直なところ、多くの税理士を上回っています。
税法の条文、通達、判例、一般的な節税スキーム、会計基準、経営理論…膨大な情報を学習しており、それを瞬時に引き出すことができる。このスピードと網羅性では、人間はとても太刀打ちできません。
そして今後、この能力はさらに向上していくでしょう。
ただ、「知識量が多い」ことと「相談相手として適切」かどうかは、別の話です。
たとえば、医療に関する知識がものすごく豊富な友達がいたとします。
その人に「最近、胸が痛いんだよね」と相談したら、考えられる病名を100個くらい挙げてくれました。確かに膨大な情報をあなたは得ることはできたし、その中に自分の病状に当てはまるものがあるかもしれません。
しかし、実際のところ「結局わたしの場合はどの病気なのか?」はわからないまま。それを知るためには、プロである医師に実際に症状を詳しく話し、検査をし、総合的に判断してもらう必要がありますよね。
税務の相談も同じです。
生成AIの回答する一般的な知識をいくら並べても、「あなたの場合はどうか」の判断を自分自身でしなければならないのであれば、結局答えはよく分からないままなのです。
生成AIを活用できる人、できない人

では、生成AIは税務の相談には使えないのでしょうか?
そんなことはありません。使い方次第では非常に強力なツールになります。
活用できるケース
生成AIが力を発揮するのは、こんなケースです。
- ある程度の基礎知識がある分野について調べる場合
- 自分の専門領域に関連する情報を整理したい場合
- 複数の選択肢のメリット・デメリットを比較したい場合
- 調べ物の「とっかかり」を得たい場合
たとえば、税理士である私自身も、調べ物をするときに生成AIを活用することがあります。基礎知識があるので、AIの回答の「どこが正しくて、どこが怪しいか」がある程度判断できるからです。
同じように、経営者の方でも、自社の事業領域や業界動向については専門知識をお持ちのはず。そうした分野の情報収集には、生成AIは非常に便利なツールになるでしょう。
注意が必要なケース
一方で、注意が必要なのは「自分の専門外の分野」について生成AIに相談するケースです。
専門外の分野では、どうしても「自分の期待する答え」を求めてしまいがち。今回の事例のように、「法人化すれば節税になるはず」というバイアスがかかった状態で質問すると、その期待に沿った情報ばかりが目に入ってしまいます。
そもそも生成AIに投げかける質問自体が、無意識のうちに一定の結論ありきのものになっている可能性もあります。生成AIは質問者の意図を汲んで回答する傾向があるので、このバイアスがさらに強化されることも。
その結果、本来確認すべき前提条件を見落としたり、自分には当てはまらない情報を鵜呑みにしてしまったりするリスクがあります。
結論:生成AIは「代わり」ではなく「補助」として

最後に、「生成AIは税理士の代わりになるのか?」という問いに対する私なりの答えを。
現時点では、専門家への相談なしに、自分の専門外の分野を丸投げするのはハイリスクだと考えています。
生成AIは確かに優秀です。知識量では多くの専門家を凌駕しており、今後その能力はさらに伸びていくでしょう。
しかし、少なくとも今の段階では、生成AIには「あなたの状況を踏まえて、適切な質問を投げかけ、一緒に考える」という機能が十分に備わっていません。
人間の専門家は、会話のキャッチボールを通じて、相談者自身が気づいていない前提条件や見落としを発見します。「それって本当にできるんですか?」「生活費はどうするんですか?」といった素朴な確認が、思わぬ落とし穴を防いでくれることがあるのです。
生成AIは「調べ物の効率化」や「選択肢の洗い出し」には非常に有効なツールです。ぜひ積極的に活用してください。
ただ、最終的な判断、特に自分の専門外で影響が大きい分野については、やはり専門家に相談することをおすすめします。
AIが教えてくれた情報を「鵜呑みにする」のではなく、「叩き台にして専門家と相談する」という使い方。これが、今の時点では一番賢い活用法ではないでしょうか。
生成AIはとても便利なツールですが、「自分のケースに当てはまるか」の判断は慎重に。迷ったときは、ぜひお気軽にご相談ください。







