
第3回(最終回)は、万が一会社と個人のお金の混同が判明した場合の対処方法や、その後の再発防止策、さらにこれまでの総まとめをお届けします。最後までお付き合いください。
気軽にさらっと読めるような内容となるよう心がけています。
第1回はこちら
【全3回:社長必見】第1回そのお金って会社のもの?社長のもの?個人と会社の財布を分ける意味
第2回はこちら
【全3回:社長必見】第2回そのお金長必見、会社のもの?社長のもの?経費になるもの・ならないもの
第7章:混同しないための心構えと会社経営のメリット
7-1. 「会社」は自分とは違う存在だという意識
さて過去2回にわたってお話した内容の繰り返しになりますが、会社と個人は利益の計算は完全に別の人格です。
社長は会社を運営する責任者ですが、会社の銀行口座にあるお金は「会社」という組織のもの。
社長個人のものではありません。
もちろん、会社のオーナーなので会社のお金=自分のお金と感じる気持ちは分かります。
ただし、あくまで会社は別の存在であって自由にお金を出し入れしてはいけないという意識を持つことが重要です。
7-2. 財布をキッチリ分けるメリット
さて、会社と個人の財布を分ける意識についてお話しましたが、キッチリ財布を分けるメリットを考えてみましょう。
- 経営状況が正確に把握できる
会社のお金だけを純粋に見ることで、毎月の売上や経費、利益がどれくらいなのかが明確になります。これにより、経営の意思決定がしやすくなります。
社長の生活費が混ざると、結局会社が儲かってるのか儲かっていないのか、よくわからなくなりがちです。 - 税務リスクが下がる
個人と会社のお金が混ざっていなければ、税務調査の際に社長の個人的な支払が混ざっているのでは?なんて不必要な疑いをかけられるリスクが減ります。結果として、余計なペナルティを受ける可能性も下がるでしょう。
キッチリ分けられていれば経費も自信をもって「これは経費だ」と主張できるわけです。 - 金融機関や取引先からの信用が高まる
会社の口座や決算書が整然としていれば、金融機関や取引先からの評価も上がります。融資が必要になったとき、スムーズに話が進む可能性が高まります。
銀行は「事業に使ってもらい、キッチリ返してほしい。」そう思うはずです。それなのに、「借りたお金は社長の生活費に消えました。」では困るわけです - 時間と労力の節約
経理処理がシンプルになり、後から「このお金はなんだったかな?」と悩む時間が減ります。月次・年次の決算作業が楽になり、本業に集中する時間を増やすことができます。
この領収書は個人分なのか会社分なのか、会社の財布から支払ってしまうとこの選別作業が大変になります。社長業に専念したいのに、こんな余計なことに時間を使うのはもったいない。
第8章:万が一財布が混ざってしまった場合の対処
8-1. 事後の対策:過去の帳簿を遡って整理する
混ざってしまったものは仕方ありません。
もし既に会社と個人のお金が混在していると気づいたなら、できる限り早く帳簿を遡って整理していきましょう。
どの支出が会社の経費で、どの支出が個人的なものだったのかを仕分けし、必要に応じて経理ソフト上でも修正処理を行います。
修正に当たっては、領収書やカード明細を丹念に見直すことになります。手間はかかりますが、今後のことを考えれば絶対にやらなければならない作業です。
8-2. 事前の対策:財布が混ざらないようにしっかり財布を分ける
一度整理が終わったら、今後同じ状況に陥らないよう、再発防止策を立てましょう。具体的には、
- 会社と個人の口座・カードを徹底して分ける
- 月次チェックや経理担当との連携を強化する
- 定期的に税理士と面談して状況を確認する
など、今までの章で述べてきた内容を地道に実行することが大切です。
繰り返しになりますが、「会社の財布と社長の財布は完全に別物である」という意識を常に持つことが一番重要です。
第9章:税理士から見た「社長がやるべき3つのこと」
最後に、税理士として「まずはここだけは押さえて!」という3つのポイントをまとめます。
- 会社名義の銀行口座・クレジットカードをきちんと作る(現金は極力使わない)
開業当初は忙しく、つい個人の口座やカードで済ませてしまうことが多いですが、できるだけ早く法人名義でそろえましょう。後回しにすると取り返しがつかないほど混乱します。
また、現金を極力使わないようにすることで、会社の財布と社長の財布が混ざらなくなります。 - 役員報酬を決めて、それ以外のお金は個人口座に引き出さない
プライベートで使うお金は、すべて役員報酬という形で受け取る。
足りなくなったからといって随時会社の口座からお金を引き出すのは厳禁です。
どうしても一時的に立て替えなどが発生する場合は、必ず経費精算書を作り、領収書を添付して処理しましょう。 - 月に一度は必ず帳簿をチェックし、領収書の整理を行う
後からまとめてやろうとすると領収書をなくしたり、何の支出だったか忘れたりしてミスが増えます。
小まめなチェックは、結果的にあなたの時間を節約し、税務リスクも減らしてくれます。
第10章:おわりに
ここまで、会社と個人のお金を分ける重要性や具体的な方法、そのメリットや万が一混同してしまった場合の対処法などについて解説してきました。
「会社を作った=自分のお財布も会社のお財布も同じ」というイメージは、いかに危険かおわかりいただけたでしょうか。
繰り返しますが、会社は法人という独立した人格であり、経営者(社長)自身とは別です。
会社に入ってくるお金は、あくまで会社の運営のために使い、社長個人のお金が必要なら役員報酬という形で受け取る。
これを徹底すれば、会社と社長のお金の混在は確実に避けられます。
特に、中小企業においては会社と個人の財布が曖昧なまま日々の業務をこなしているケースが少なくありません。
でも、いざ融資を受けようとか、設備投資をしようという段階で会社に正確なお金の流れが見えないと、金融機関の審査で不利になったり、投資判断を誤ったりしてしまいます。
日本の中小企業は社長自身のアイデアや行動力で支えられています。しかし、「経理周りの手続きはよくわからない」「税務に詳しくない」という理由で会社と個人を混ぜるのは非常にもったいないことです。
正しいやり方を少し学んで実行すれば、会社の信用力は格段に上がり、社長としても経営判断がしやすくなります。
もし、「いまさら分けられるかな?」と不安に思っている方も大丈夫です。今からやりましょう。
1日でも早く口座とカードを分けることからスタートし、今後の支出を明確にしていけば徐々に改善できます。
ぜひ、この機会に会社と個人のお金を見直し、正しい区別をつけて、より良い経営を実現してください。
付録:チェックリスト
最後に、簡易的なチェックリストを置いておきます。自社の現状を振り返り、一つでも当てはまれば要注意です。ぜひ改善に向けて取り組んでみてください。
- 会社名義の銀行口座があるにもかかわらず、個人名義の口座で会社のお金を受け取っている。
- 法人クレジットカードを作っていない、もしくは作っていても現金しか使っていない。
- 会社の口座から生活費や私的な買い物代を直接引き出している。
- 実は役員報酬だけでは生活費が足りない。
- 会社の経費とプライベートの費用を区別する領収書管理ができていない。
- 「仮払金」や「役員貸付金」が長期間精算されずに残っている。
- 月次決算や帳簿チェックをしばらく行っておらず、現金や口座残高の動きに不透明な点がある。
これらの項目を一つずつクリアしていけば、会社と個人のお金がきっちり分離され、より健全な経営と税務管理が実現できるはずです。
■第3回コラム まとめ
これにて、全3回にわたる「会社と個人のお金」のコラムは完結です。
- 第1回では、分ける必要性と基本的な分け方の概念。
- 第2回では、税務上の基本知識や経費の考え方など。
- 第3回では、混同が発覚した場合の対処法と再発防止策、そして総まとめ。
それぞれのポイントを押さえて、会社と個人のお金の区別をしっかりと行い、トラブルを未然に防ぎながら、健全な経営と安心できる税務対応を実現していきましょう。
また、会社のお金のことでお困りの場合にはお気軽にお問い合わせください。