会社のお金?社長のお金?

はじめに

「社長になったら自由にお金が使えるようになる!」―

こう考えている方は意外と多いかもしれません。

確かに、会社という組織を自分で作り、そのトップに立つのは大変なことです。しかし、ビジネスを動かす資金も含めてさまざまなお金を扱う立場でもあります。

だから「会社の口座にお金があるから、これを全部自由に使っていい!」というわけではありません。

会社のお金は会社のもの、個人のお金は個人のもの。

この「区別」がとても重要です。

ところが、「どこまでが会社のお金で、どこからが自分のお金かわからない」という方は少なくありません。特に、創業当初は「会社=自分」のような感覚になりがちです。

たとえば、

  • 会社の口座に振り込まれたお金をそのまま私的な買い物に使ってしまう。
  • 個人の生活費の口座から会社の経費を払ってしまうなど、

混同は起こりやすいものです。

しかし、この混同はのちのち大きな問題を引き起こす可能性があります。

税務調査で指摘され、会社にも個人にも余計な税金やペナルティがかかることもありますし、取引先や金融機関からの信用を落とす原因にもなりかねません。

本コラムでは、「なぜ会社と個人のお金は分けなければいけないのか?」という根本からはじまり、「具体的にどう分けるのか?」を、税理士としての視点からわかりやすく解説していきます。

川畑文秀

気軽な読み物として、コーヒーでも飲みながら流し読みしていただけると嬉しいです。


第1章:会社と個人を分けるイメージ

1-1. 「二つの財布」の考え方

会社と個人のお金を混同しないためには、まず「会社には会社専用のお財布」「個人には個人専用のお財布」があるイメージをしっかりと持つことが大切です。

たとえば、「普段自分がプライベートで使うための財布」と、「会社の経費を支払うためだけの財布」と、二つの財布を常に使い分けるようにイメージしてください。

あくまでも、「会社の財布と個人の財布は違う場所にある別物」であるべきです。

1-2. なぜ混ざるといけないか?

混ざってしまうと、会社が本当はいくら利益を出しているのか、あるいはいくらお金を使っているのかがわからなくなります

さらに税務上のトラブルも増えます。

会社の経費と個人の支出がごちゃごちゃになってしまうと、税務署から見ると「会社の経費と見せかけて、個人の買い物を落としているのでは?」と疑いたくなってくるわけです。

また、たとえ実際には個人的な買い物ではなく、会社の業務上必要な支払いであっても、記録が曖昧だと後から証明が難しくなります。

結果として、税務調査の際に経費計上を否認され、余分な税金を支払うはめになる可能性も出てくるのです。


第2章:会社と個人のお金を混同すると起こる問題

2-1. 税務調査での指摘リスク

(1)会社のお金で個人の支出をすると「役員賞与」扱いになるかも

もし会社のお金で個人的な買い物をしていた場合、税務調査では「役員に対する賞与(ボーナス)」とみなされるケースがあります。

役員賞与は、原則として会社側で経費計上が認められません。

参考:思わぬ落とし穴で税金増加?役員報酬の注意点!定期同額給与と事前確定届出給与を徹底解説

そのため、会社の税金(法人税)が余分に増える可能性があるだけでなく、役員本人の所得としても課税対象になりかねません。

さらに、こうした指摘があると税務署側からは

  • この会社はちゃんと帳簿をつけていないかもしれない
  • お金の使い道があやふやだ
  • 実際には個人経費が混ざっるに違いない

とみられるため、厳しくチェックされる可能税が高まります。

(2)「仮払金」「貸付金」がずっと残ってしまうケース

会社と個人のお金を混同する方の中には、「とりあえず経費精算の前渡し。」という形で「仮払金」として処理しているケースがあります。

あるいは、役員貸付金として処理し、実際には返済されないままズルズル続いてしまう。これも税務調査で目をつけられやすい部分です。

仮払金や貸付金が大きくなると、本来利益として残るはずのお金が役員個人に流れてしまっていると疑われます。結果として「これって実質役員賞与なのでは?」となるリスクが高まります。

川畑文秀

役員貸付の場合、利息も取られるので溜まれば溜まるほど利息もどんどん増えていきます・・・

参考:国税庁HP「No.2606 金銭を貸し付けたとき

2-2. 会計・経理業務が複雑化してミスが増える

個人のお金と会社のお金を明確に分けて管理していないと、経理の処理が煩雑になります。

帳簿付けの段階で「この支出は会社の分?個人の分?」と毎回悩んだり、間違えて仕訳したりしてしまいます。

経理ミスがあると、最終的な決算書にも影響が出ます。

決算書は銀行などの金融機関からお金を借りるときに重要な資料になります。

社長貸付が多かったり、社長の個人的な支払が多く混ざっていそうな決算書を出してしまう。そんなことをしていると、「この会社、大丈夫かな?」と疑われて融資に響く可能性が高いです。

融資したお金が社長のプライベートな支出に流れるのを嫌うわけです。

2-3. キャッシュフローが不透明になり会社運営に悪影響

会社のキャッシュフロー(お金の出入り)は経営にとって非常に重要な情報です。

ところが、個人の支出が混ざっていると、純粋な会社のお金の出入りが見えなくなってしまいます。

例えば、会社に必要な資金を確保できているつもりでも、いつの間にか社長の私的な引き出しが重なっていて、「気づいたら支払うべきお金が払えない。」という事態を招くことも。

これは極端な例に聞こえるかもしれませんが、中小企業ではよく起こる話です。

銀行からも「融資先のお金の使い道が見えにくい・・・」

と判断されてしまうと、追加融資を受ける際の審査でも不利になります。会社の資金繰りを守るためにも、会社のお金はきちんと管理しなければいけないのです。


第3章:会社と個人のお金を分ける具体的なステップ

3-1. 法人口座と個人口座を必ず分ける

「会社と個人のお金を分ける」うえで、いちばん重要な基本は銀行口座を分けることです。

会社を設立したら、銀行に法人口座(会社名義の口座)を作ります。

この法人口座で、会社の売上の入金を受け取り、会社の経費の支払いもすべて行うようにするのです。

一方、個人のお金は個人名義の口座で管理し、個人的な買い物や生活費の支払いにはこの個人口座を使います。

「法人口座」があるのに、個人の口座で会社の売上を受け取っている方はすぐにでもやめましょう。

また、支払に現金を使っている方がいますが、これも極力避けましょう。現金はよっぽど管理能力の高い人でない限り99.9%個人のお金と混ざります。

現金は記録をつけ忘れた瞬間からあっという間に混ざっていきます。

3-2. クレジットカードも分ける

銀行口座だけでなく、クレジットカードも会社名義の法人カードを作りましょう。

個人用の買い物は個人のカードで行ってください。こうすることで、会社の支出と個人の支出が簡単に区別できるようになります。

もしどうしても法人カードが使えない場面や、やむを得ず個人カードを使った場合は、経費精算の手続きをしっかり行いましょう。

具体的には、

  • 経費精算用の書類(精算書)を作成
  • 支払った金額と理由を記載
  • 領収書を添付して会社に精算請求を行う
  • 会社があなたに対して「立替分」を払う

このような手順を必ず行うようにしましょう!

3-3. 必ず給与(役員報酬)という形でお金を移す

社長が個人で生活費として使うお金は、会社から「役員報酬」という形で受け取るようにしましょう。

それ以外の方法で会社の口座からお金を引き出す必要がなくなります。

給与(役員報酬)として受け取る場合は、あらかじめ決められた金額や支給タイミングに従って口座振込で受け取ります。これが「会社から個人への正しいお金の移し方」です。

もし決まった役員報酬以外のお金を随時引き出していると、前述のとおり「仮払金」や「貸付金」が発生し、混乱の原因になります。

また、多額になればなるほど税務上のリスクが高まるでしょう。

3-4. レシート・領収書の保管を徹底する

会社の経費として支払ったお金については、必ずレシートや領収書などの証拠を残しましょう。

これがないと後で「この支出は何だったっけ?」となり、経費計上ができなくなったり、税務調査で指摘を受けたりします。

また、個人で立て替えたものがある場合も同様に、必ず領収書を保管し、精算処理をする必要があります。

領収書を月別に整理したり、スキャンして保存したり、自分に合った方法でしっかりと管理しましょう。

3-5. 会計ソフトの活用

会社のお金を適切に管理するためには、会計ソフトの活用がおすすめです。

銀行やクレジットカードの明細を自動で取り込んでくれるソフトも多く、記帳の手間がぐっと減ります。

クラウド会計ソフトなら、ネットバンキングと連携することで、残高や入出金の情報を自動取得してくれます。

これにより、「何のお金を支払ったのか」が一目瞭然になり、会社と個人のお金の区別もしやすくなります。


■第1回コラム まとめ

第1回では会社と個人のお金を分ける重要性と、その具体的な始め方をざっくりとお伝えしました。

第2回コラムでは、もう少し踏み込んで「税務の基本」「経費として落ちるもの、落ちないもの」などについて解説していきます。

ぜひ引き続きご覧ください。