
さて、第2回では、「会社と個人は別物」としてお金を管理していく上で、法人税と所得税の違い、役員報酬の設定、経費として落とせるもの・落とせないものといった、税務上の基本的なポイントを解説します。
第1回はこちらです。
第4章:税務の基本~会社と個人の違い~
4-1. 法人税と所得税
会社のお金は「法人(会社)」のものとして扱われ、利益に対して法人税が課されます。
一方、個人の所得に対しては所得税が課されます。
会社と個人はまったく別の納税主体なのです。
たとえば、会社(法人)が100万円の利益を上げたら、会社として法人税を支払います。
同時に、社長個人が役員報酬を受け取った分については、社長の個人として所得税を支払うことになります。
もし会社のお金を勝手に個人が使ってしまうと、それが会社の経費なのか、個人の所得なのかがあやふやになり、税務署から見れば「どっちなの?」と疑われる原因になります。
もちろん、支払が社長個人のものだということになれば、役員賞与として法人側で損金不算入、法人側での源泉所得税の天引漏れ、社長個人の給与所得の増加とされて突然多額の税金支払いが必要になります。
4-2. 役員報酬の設定
社長の給与(役員報酬)は、個人の所得です。
会社の経費となり得ますが、税務上は一定のルールに基づいて定期同額給与などの形式を取らなければなりません。
一般的には、毎月一定の金額を報酬として受け取る「定期同額給与」が多いでしょう。期中に金額を増減させると、増減させた部分が経費にならないケースがあるため注意が必要です。
また、役員報酬は会社の利益やキャッシュフローにも大きな影響を与えます。
月々の支払い額が高すぎると会社の資金繰りが苦しくなるし、逆に低すぎると社長個人の生活がままならなくなります。
会社と個人のバランスを考えながら、適正な報酬を設定することが大切です。
4-3. 経費として落とせるもの、落とせないもの
会社で経費として落とせるかどうかは、「その支出が事業(会社の仕事)に必要なものかどうか」で判断されます。
事業と無関係な個人的な買い物は、経費にはなりません。
たとえば、
- 経費として落とせる例:会社の業務で使うパソコンやスマートフォン、取引先との打ち合わせに要した交通費、会社オフィスの家賃、社用車のガソリン代 など。
- 経費として落とせない例:社長の個人的な趣味のもの、家族とのプライベート旅行の費用、社長個人の住居の家賃 など。
こういった判断は「自社の従業員が経費精算で請求してきたときにスッと出すか」を判断基準にしていれば、概ね間違った判断となることはないでしょう。
もちろん100%ということはありませんが。
4-4. 消費税の考え方
消費税は、会社が商品やサービスを提供したときに受け取る消費税と、会社が支払う仕入れや経費の消費税との「差額」を納める仕組みです。
個人の消費に対する消費税とは扱いが違います。
会社の場合は「益税にならないように、受け取った消費税から経費で支払った消費税を差し引き、それをきちんと国に納める」必要があります。
会社のお金と個人のお金が混ざってしまうと、この消費税の計算もややこしくなります。
なにが事業用の支出で、なにが個人的な支出なのかをはっきり区別しないと、正確に消費税を計算できないからです。
第5章:会社と個人のお金を分けるための実務テクニック
5-1. 「月に一度」のチェックタイムを設ける
忙しい社長ほど、日々の経理や領収書の整理が後回しになりがちです。
しかし、月に一度でもいいのでしっかりチェックタイムを設け、銀行口座の入出金やクレジットカードの利用明細などを確認しましょう。
- この支出は会社の経費?個人の費用?
- 個人が立替えたものは精算されている?
- 会社の口座から個人の支払いが行われていないか?
こうした点を確認し、怪しい支出があればその場で修正しておけば大きなトラブルには発展しにくくなります。
5-2. 定期的に経理担当や税理士とコミュニケーション
社長一人で経理をすべて完璧にこなすのは、なかなか大変です。
できれば経理担当者を雇うか、アウトソーシングを利用するなどして、定期的に帳簿をチェックしてもらう仕組みを作りましょう。
税理士と契約している場合は、月次決算書の作成や試算表のチェックなどを依頼するのも有効です。
早め早めに問題点を発見し修正すれば、年末や決算期に慌てることがなくなります。
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5-3. キャッシュレス決済の活用で「記録」を残す
現金払いだと、何にいくら使ったかが曖昧になりがちですが、クレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済を活用すれば、支払いの記録が自動的に残ります。
こうすることで楽に経費の記録を行うことができます。
特に法人カードを使えば、「会社の支払いはすべて法人カードで決済し、明細は会計ソフトに取り込む」という流れを作りやすいです。
これによって、後から振り返っても会社の支出を明確に把握できます。
5-4. 小口現金を使うなら「用途」と「金額」を厳密に管理
どうしても現金が必要な場面がある場合は、小口現金を社内で管理することもあります。
その場合は、「小口現金出納帳」を作り、小口現金を使うたびに用途と金額、日付をきちんと記録しておきましょう。
このときも、プライベートな支出を絶対に混ぜないように注意が必要です。
「このお金は会社で管理しているもの」という意識を強く持ちましょう。
ひとり社長の場合には、個人のお金と会社のお金が1つの財布で管理してしまっているケースが良くあります。プライベート分と会社分が混ざってしまう原因になるため、絶対に財布は分けるようにしましょう。
第6章:よくある疑問とトラブル事例
6-1. 「会社のお金が足りなくなったから個人で立て替えたが、精算していない…どうする?」
まずは早急に領収書やレシートを探し出し、精算手続きを行いましょう。
「経費精算書」を作成し、立替えた日時、内容、金額を明確にしたうえで、会社から個人に返金してもらいます。
領収書がどうしても見つからない場合は、メモや事情説明書を作り、可能な限りで証拠を揃えておくことをおすすめします。
完全に証拠がないと経費として認められないリスクがありますが、少なくとも支払の事実については確実に記録しておくことが大切です。
この点、現金で払ってしまうと領収書がない=支払事実の確認が一切取れないということになります。
このため、振込やクレジットカードの利用がオススメです。
6-2. 「社長個人のカードで会社の支払いをしているが問題ない?」
絶対にNGというわけではありませんが、会社と個人のお金が混ざりやすい原因になります。
この問題を避けるためには、個人カードで支払った会社経費を毎月きちんと精算し、立替経費として帳簿に記録することです。
ただし、頻繁に立替が発生すると管理が煩雑になります。やはり法人カードの導入を検討したほうが、後々のことを考えてもメリットが大きいでしょう。
6-3. 「役員報酬が固定ではなく、毎月バラバラ…これって大丈夫?」
税務上、役員報酬を毎月変動させることは原則として認められません。
定期同額給与の要件を満たしていないと、変動した部分が法人の経費として認められない可能性が高いです。特別な事情(事前確定届出給与など)を除き、基本的には年度の初めに報酬額を決め、期中は同額を支給するのが原則です。
もし、すでにバラバラに支給してしまっている場合は、早めに税理士に相談し、どう申告すべきか対応を検討する必要があります。
参考:思わぬ落とし穴で税金増加?役員報酬の注意点!定期同額給与と事前確定届出給与を徹底解説
6-4. 「家族でやっている小さな会社だから、口座を分ける必要はないのでは?」
家族経営であっても、「会社は会社、個人は個人」という区別は必須です。
むしろ家族間だからこそ「個人のお金を自由に会社から引き出す」「会社の口座を家計の延長で使う」といった甘えが生じやすく、後々トラブルになりやすいのです。
また、事業が順調に大きくなってきたときに、帳簿や口座がきちんと分かれていないと経営判断が難しくなるだけでなく、金融機関などからの評価も下がります。
■第2回コラム まとめ
今回の第2回では、法人税や所得税の違い、役員報酬のルール、経費として落ちる・落ちない基準など、税務面の基本知識をお伝えしました。
次回の第3回コラムでは、さらに「もし混同が発覚した場合の対処法」や「再発防止のためのポイント」、そして「会社と個人のお金を分けることで得られるメリットのまとめ」などを解説します。
ぜひそちらも合わせてチェックしてみてください。