「相続対策になりますよ」
こんなセールストークとともに、保険の営業マンや銀行の担当者から商品を勧められたことはありませんか?
自営業や不動産賃貸業を営んでいる方であれば、一度や二度は経験があるのではないでしょうか。
「万が一のときに、ご家族が相続税の支払いで困らないように」 「死亡保険金には非課税枠がありますから、節税になります」
こう言われると、なんだか今すぐ契約しないといけない気持ちになりますよね。
でも、ちょっと待ってください。
その保険、あなたにとって本当に必要なものかどうか、きちんと確認しましたか?
今回は、相続対策として保険を検討する前に、必ず知っておいていただきたい**「正しい順番」**についてお話しします。
なぜ「相続対策に保険」と勧められるのか?
まず前提として、保険商品が相続対策に使われること自体には、ちゃんとした理由があります。
代表的なものを挙げると、
・死亡保険金の非課税枠:「500万円 × 法定相続人の数」まで相続税がかからない ・納税資金の確保:相続税の支払いに必要な現金を用意できる ・遺産分割対策:特定の相続人にまとまった現金を渡せる
こういった活用法は、たしかに理にかなっています。
参考:Q.生命保険の死亡保険金には相続税の非課税枠があると聞きました。いくらまで非課税ですか?
ですから、「相続対策に保険を使う」ということ自体を否定するつもりはありません。というよりも、私自身も活用を勧めています。
ただし、ここには大きな前提条件があります。それは、「あなたの財産全体を把握したうえで、保険が最適な手段だと判断できた場合に限る」 ということです。
この前提をすっ飛ばしてしまうと、どんなに良い保険商品であっても、まったくのムダ金になってしまう可能性があるんです。
相続対策には”正しい順番”がある
相続対策には、絶対に守るべき順番があります。
それが次の3ステップです。
①相続人の確認(家族構成の整理)
まず、誰が相続人になるのかを正確に把握します。配偶者、子ども、場合によっては兄弟姉妹など、法定相続人が誰なのかを確認する作業です。
②財産の把握(全体像の確認)
次に、財産の全体像を洗い出します。不動産、預貯金、有価証券、生命保険、事業用資産など、すべての財産を一覧にして、「そもそも相続税がかかるのか?」「かかるとしたらいくらぐらいなのか?」を確認します。
③具体的な対策の実行
①と②を踏まえたうえで、初めて「じゃあどんな対策が必要か?」という話に入ります。保険の活用はここで初めて選択肢に上がるものです。
この①→②→③の順番が、非常に重要です。
財産の把握をしない相続対策は「検査なしの手術」
ちょっとたとえ話をしましょう。
体の調子が悪くて病院に行ったとします。普通なら、まず問診を受けて、必要に応じて血液検査やレントゲンなどで体の状態を調べますよね。その結果を見て、初めて「では、こういう治療をしましょう」という話になります。
もし検査もなしに、いきなり「手術しましょう」と言われたらどうでしょう? 怖いですよね。
相続対策もこれとまったく同じです。
「財産の全体像」という検査をしないまま保険に入るという事は、いきなり「手術しましょう」と言われているのと同じ状態なんです。
保険営業マンや銀行担当者の提案に潜む落とし穴
では、なぜ保険の営業マンや銀行の担当者は、②をすっ飛ばしていきなり③の話を持ってくるのでしょうか?
これは後ほど詳しく説明しますが、簡単に言えば 「②をやる立場にない」 からです。
結果として、次のようなことが実際に起きています。
ケース1:そもそも相続税がかからなかった
相続税には「基礎控除」というものがあります。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば配偶者と子ども2人の家庭なら、基礎控除は4,800万円です。つまり、財産の総額が4,800万円以下であれば、相続税は1円もかかりません。にもかかわらず、「相続対策になりますよ」と言われて高額な保険に加入してしまう方が実際にいます。
参考:Q.相続税はいくらからかかりますか?基礎控除の計算方法を教えてください。
相続税がかからない人にとって、「相続税対策の保険」は完全に不要です。その保険料を払い続けるお金があるなら、事業の運転資金や設備投資に回したほうが、よっぽど有意義ではないでしょうか。
ケース2:保険よりも優先すべき対策があった
仮に相続税がかかる場合でも、保険が最善の対策とは限りません。
たとえば、財産のほとんどが不動産で構成されている方であれば、小規模宅地等の特例の適用を検討したり、不動産の評価方法を見直したりすることで、保険に頼らなくても大幅に税負担を軽減できるケースがあります。
あるいは、生前贈与を計画的に行ったり、相続時精算課税の適用を検討することで、保険を使うよりも効果的に財産を移転できる場合もあります。
保険はあくまで選択肢のひとつに過ぎません。 財産全体を見渡さないと、何が最適かは判断できないのです。
相続対策商品はどれだけ良い商品でも、必要のない人にはムダ
世の中には優れた保険商品がたくさんあります。しかし、どれだけ良い商品でも、必要のない人にとっては無駄です。
もっと厳しい言い方をすれば、間違った使い方をすれば、ただのゴミになります。
高性能なスポーツカーだって、免許を持っていない人が買えばガレージに置いておくだけの飾りですよね。道具は使う人と使い方が正しくて、初めて価値を発揮するものです。
なぜ保険営業マンや銀行担当者では相続対策ができないのか
ここで大事なことをお伝えしておきます。
個別具体的な相続対策を立案・検討できるのは、税理士だけです。
これは「税理士のほうが詳しいから」という能力の話ではなく、法律(税理士法)でそう定められているという話です。
税理士法では、税理士でない者が税務に関する個別の相談を受けたり、具体的な対策を提案したりすることを禁止しています。つまり、保険の営業マンや銀行の担当者が「あなたの財産はこうなっているから、相続税はこうなりますから、こういう対策をしましょう」と具体的に踏み込むことは、そもそもできないのです。
仮にしていた場合には税理士法違反となってしまいます。また、相続税に詳しいと言う方でも、肝心な部分の勘違いや、所得税や贈与税などの他の税金への影響については完全に見落としているケースも多くあります。
彼らの立場を理解する
ここで誤解していただきたくないのは、保険の営業マンや銀行の担当者が悪意を持っているわけではないということです。
彼らの仕事は「保険商品を提案・販売すること」や「金融商品を通じてお客様の資産形成をサポートすること」です。これは立派な仕事であり、顧客をあらゆるリスクから保険で守るのが彼らの使命だと思います。
しかし、構造的に「あなたの相続税全体を最適化する」という役割を担っていないのです。
つまり、先ほどの3ステップでいう①と②をすっ飛ばして③の提案をせざるを得ない立場にあるということです。
正しい相続対策の進め方
では、実際にどう進めればいいのか?をまとめます。
ステップ①:まず税理士に相談する
最初にやるべきことは、税理士に相談して家族構成と財産の全体像を把握することです。
「相続対策をしたいのですが、まず何から始めればいいですか?」
この一言で大丈夫です。そこから税理士が①相続人の確認と②財産の把握をサポートしてくれます。
ステップ②:財産の全体像を確認する
税理士と一緒に、以下のような財産をすべて洗い出します。
・不動産(土地・建物)、預貯金 、有価証券(株式・投資信託など) 、生命保険(既に加入しているもの) 、事業用資産 、その他の財産(貴金属、車両、ゴルフ会員権など) 、借入金などの債務
これらを整理すると、「そもそも相続税がかかるのかどうか」がはっきりします。
実は、財産を洗い出してみたら「相続税がかからなかった」というケースは決して珍しくありません。
もしそうだったら、わざわざ高額な保険に入る必要はないわけです。そのお金は事業の運転資金に回すなり、設備投資に使うなり、もっと有効な使い方ができますよね。
参考:【相続】財産管理できてますか?生前の相続対策が重要な3つの理由とステップ
ステップ③:必要な対策を実行する
①と②を済ませたうえで、初めて「どんな対策が必要か」を検討します。
その結果として保険が有効であれば、堂々と活用すればいいのです。財産全体を把握したうえで「保険が最適だ」と判断できたなら、それは正しい選択です。
大事なのは、「①→②→③」の順番を守ること。 これだけです。
まとめ:「相続対策=保険」ではない
最後にもう一度、大切なことを整理します。
・相続対策には「①相続人の確認→②財産の把握→③対策の実行」という正しい順番がある
・保険の営業マンや銀行の担当者の提案は、②を飛ばしていきなり③に入るケースがほとんど
・そもそも相続税がかからない人が、不要な保険に加入してしまうリスクがある
・個別具体的な相続対策の立案は、税理士の独占業務として法律で定められている
・保険は選択肢のひとつに過ぎず、財産全体を把握して初めて最適な対策がわかる
「相続対策=保険」ではありません。
正しい順番を踏むこと。これが、最も確実で、最もムダのない相続対策です。
「保険を勧められているけど、本当に必要なのかわからない」 「そもそも自分に相続税がかかるのか知りたい」
そんな方は、まずは財産の全体像を確認するところから始めてみませんか?
当事務所では、横浜市鶴見区を拠点に、相続対策のご相談を承っております。保険の契約を検討される前に、まずはお気軽にご相談ください。正しい順番で、あなたに本当に必要な対策を一緒に考えましょう。
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